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からすや食堂 (福島県いわき市久之浜)

栗田祥弘建築都市研究所

震災から6年、町に戻ってきたはじまりの一灯

「からすや食堂」は福島県いわき市久之浜町にて親子三代50年以上地元住民に料理を振舞ってきた老舗食堂だが、東日本大震災の津波を受けて全壊した。その後、仮設商店街「浜風商店街」にて営業を再開し、ついに震災から6年の年月を経て、かつて営業していた町内にて本設となった。かつての店舗時代の地域の皆さんや仮設商店街時代に支えられた皆さんに恩返しすべく人々が集い情報交換できる公共性のある場を目指した。地場の木を使ったあたたかみある店内は震災ギャラリーが設けられ地域や復興支援者達の憩いの場となっている。敷地周辺のほとんどはまだ更地の中で、暗がりを照らす希望の灯りとなった。

 

地域における公共性を担う食堂

 

震災以後、被災地における地域交流の必要性は益々大きくなっているが、そのためのキーマンも場もまだ十分とは言い難い。このような中、仮設商店街で営業していた「からすや食堂」は町に戻り、これまでお世話になった町のために営業することを決めた。仮設商店街では、自然と復興支援者が立ち寄り震災のこと・福島のことを語り合い、知ることができる重要なスペースとなり得たが、本店舗での営業を再開するにあたってはただ待っているだけでは人は立ち寄る環境にはならない。誰もが積極的に立ち寄れるように店内に展示および情報交換スペースを設け、地域交流や情報発信を促進していきながら訪れた人が町や人とつながる空間を創出した。からすや食堂は小さな民間の飲食店でありながらも「町のために何かしたい」というシンプルな動機に基づく。おいしい食事を提供しながら地域に対する公共性を持ち合わせた空間である。

 

人口減少時代にめざす明るい地域

 

町の人口は減少の一途をたどり、今後も増加は見込めない。さらに町を南北にまたぐバイパスが完成したことによって交通量は激減した。当該地域は震災後一時避難を強いられ、町に戻らない選択をした人も少なくない。以上の状況を受けて「町がなくなる可能性がある」という予測が立てられるほどであった。そんな中、施主は町に戻り再建することを決めた。震災によって引き起こされてしまったのは人口問題に限らない。地域交流や観光、子供から大人までふらっと立ち寄れる居場所など多層的な公共性もまた失っていた。むしろそれらをひとつひとつ取り戻すことで、人は戻ってこなかったとしても町に明るさは戻ってくると考え、自らもその一端を担うことを考えた。それは同時に、今後さらに深刻化していく人口減少時代に備えて、少しでも明るい町を次世代に残し、渡すための一歩でもある。

 

地域のメンバーで共につくる 町の居場所/たまり場

 

施主と近しい間柄で震災を共に乗り越え、地域のために活動してきたメンバー(大工は草野球仲間、外構は義理の兄、電気工事は息子が働いていた会社)が集まり、この場を様々な人々の居場所にするためにプロジェクトを作り上げた。設計者自身もボランティアとして現地のまちづくりサポートを長く続けており、小学校の総合学習などでも被災現場をどのように変えていくか話し合いを続けている。その中で町における「居場所/たまり場」の必要性を感じていた。木造トラスは地元の工場と材料で完結できるよう施工の簡易化を図った。軒を深くすることで町の人がベンチを出して溜まれる半外部空間が生まれた。木組みの印象度を高めるために北側棟部にトップライト、妻側外壁にハイサイドライトを設け、木の囲まれ感を生み出しながらも自然光による明るさを確保した。この場所に集う人々と、この地で育った木材に光を当てることを重視した。

構造体には杉・檜を組み合わせたトラス構造を採用。かつて地元にあった木造舟小屋をモチーフにしている。地場の木材を使うことはもちろん、地元の大工や加工工場でも充分に対応できる施工性を維持しつつ最大約7.7mの大きな間口を生み出した。木組みを内外に通して設けることで、地域と店内の連続性を生み出した。木材は建材の中でも塩害にも強く、沿岸地域でも耐久性も見込まれる。地場のものに囲まれた空間は、歴史を重ねながら地域の特色や誇りを育むことにつながっていくだろう。

用途   : 飲食店

敷地面積: 457.86㎡

建築面積: 79.76㎡

延床面積: 69.41㎡

/// 受賞

・福島建築文化賞

・グッドデザイン賞

・JCD DESIGN AWARD 2017  BEST100

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